2007.12.24---個人的な事情があってすごく書きにくいお題でした。

25.姫

ある物静かなお姫様がいて
誰もがお人形のように愛でては勝手なことを言って見捨てた
お姫様は黙っていた
己が捕虜となったときも 隣国が裏切ったときも 父親が首だけになったときも

自らは首を撥ねられずに済んだお姫様 民衆に追われ姿を消した

何年か後 その地はある男に天下統一される
彼はあらゆるものを薙ぎ倒し ついに念願を果たした
その妻は隣で民衆に笑いかけ その手を挙げた

統一を果たした晩に妻は夫に尋ねごとをする
かつてあなたが父親を切り捨てた あのお姫様の行く末をご存知か と
夫は妻に そもそもあれを裏切ったのが始まりだったのだと酒を注(つ)がせた

寝台に転ぶ二人 回した首に短刀
妻は天下統一を果たした夫の首を切る
なぜ という悶絶の言葉に女は答える

覚えておいてくださいませ
姫は秘女 姫は火女 姫は妃女
私は私を裏切ったもの 最愛の父を殺したもの 姫という呼び名で見捨てたもの
それらを忘れたことはございませぬ

ある物静かなお姫様がいて 黙ってみていた
秘めごとをしながら 火のような情熱を殺しながら
愛でられたお姫様は 父への裏切りで成ったものを全て焼き払い
天下統一に喜ぶ街を全て焼き尽くして お姫様は姿を消した

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