2007.12.19---歴史的仮名遣いでお願いします。ヒカリトヤミヤトリカヒ

73.光と闇

「ミヤに理解できることがあると思うか」
彼は斜めに首を傾けて その子を哀れな目で見た
「きっと ミヤなりに精一杯に理解して生きているでしょう」
その答えを彼は嘲笑った
そして二度とその問いを発しなかった

天の高さに仰ぎ 水の深さにしゃがみ 風の速さに手を叩き 地の温もりにうつ伏せる
ミヤはいつも虹のかたちに喜び 傷つける者への気持ち悪さに憂い 笑う者へ笑う
その姿を見て いつも彼は嘆き 悲しみ 哀れに思い 同情していた

心の歳をとらぬまま朽ち逝く幼子を なにと例えれば彼を納得させえただろうか
ミヤは犬を捕まえかぶりつく ねずみを追っては噛み砕く じゃれるように 優越に浸るように
その姿に 彼はいったい何を悲観し 悲嘆し 途方に暮れたというのだろう

ある朝 彼はミヤの先から目を背け自身の命を投げ打った

「土になる 土に成るね 温かいものに成れるね」
ミヤは黒い服を着て笑った
その笑顔には何の裏も意図も駆け引きもなく
その顔は ただ残酷な眩しさで強烈に光った

彼が娘の先に何を想い なぜ命を放りだしたかミヤは理解しないだろう
彼にとり憑き苦しめ続けた闇を 一生理解しないだろう
けれどミヤは光り輝くような純粋さで
如何に自然が残酷で美しいかを間違いなく理解している

光り輝く娘の姿に闇しか見えず 闇に消えた彼に伝える術はもう無い
彼は光に染まることはできなかった
ミヤが彼の闇を理解しないように

「ミヤと理解は 光と闇の裏返しだね」
それを聞いたミヤは喪服のままくるりと回り
彼の温もりを求めて 愛しそうに満面の笑顔で地面に頬擦りをした

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