2007.10.8---彼の視点からも書きたい一品。結局はハッピー

77.溺れる

暗い海底から仰いだ

誰かが上から落ちてきた
泡と共にもがいて ひどく苦しむ女を見てた
やがて 淡い光と共に二本の腕が伸びてきて女を抱えあげる
きらりと一瞬の光射し 目を細めた
女の姿はもうなくて 海底は静かにまわる

誰かが落ちてはじたばたと暴れ
海流を妨げ抗い 泡沫をつくる
そしてどこからともなく手が伸びて また海底は平穏に戻る

私は待っている 私を掬い上げるための両腕
仰いで伸びてくる日を信じながら
光が射す一瞬に期待をして それは何度も裏切られた
暗い海底から仰いでいる
苦しかったはずの呼吸はいつの間にか馴染んで
暗い地底を這いずる足

誰かが落ちて掬われるたびに羨ましく思いながら
本当は自力で陸に上がれることも知っている
光の射すほうに ほうに 行きたいけれど
行かない 本当は離れたくない 海底から
「行ってもいいよ?」
笑うあの人がこの暗い静かな海底にいるから


海底にいる人に溺れて 熱が冷めることを期待しては暗い海底から仰ぐ
彼女はもう溺れて上がれないとわかり彼を想い溺れ足を捨てた人魚

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