2006.09.26---わかりやすさを目指したけれど教訓的にはならないように注意したつもり

90.悪戯

靴が無いと少年は叫んだ
僕の靴が無いんだ と

ほんの遊び心 悲しむ涙も必要なエッセンス
少年が上履きのままで自分の靴を探しまわる
ああ愉快だ そんなところにはないよ と笑う少年たち

破けかれた少年の靴は 廊下の隅っこのゴミ箱の中
少年は家に帰るための大事な靴を拾い上げて抱きしめた

上履きのままうずくまった少年を
笑ってみていた少年たちは大人になった

世代の相違や あらゆる世間にもまれ
彼らは帰るための靴を失った
廊下の隅っこを探しても 靴はそんなところには無いよ

靴が無いと青年は嘆いた
僕の靴が無いんだ と
あの日 人の靴を引き裂いて 隠した記憶が鮮明に蘇った

ささやかな悪戯で
確かに誰かを傷つけて大人になったのだと
青年は 自分の靴を探し始めた
昔 自分が隠した靴を あの少年が探し回ったように

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