SolemnAir-home//小説…WORDS■1■JACK
■帰る場所

いきなりおまえには兄がいると言われて、エリザは納得なんかできなかった。
兄がいるということは別にいい。
腹が立ったのは兄のもとへ行けというお上からの理不尽な命令だ。
(逆らえば、あたしは反逆罪で拘留ですって?冗談じゃ、ない!)

エリザはハーン大帝国の辺境の地で育った。
豊かな大地と恵まれた水。市場の賑わいが暖かい土地で育った。
養子だとは、知っていた。けど、義母が自分の「母」だった。
いつも天気の心配をして、暗くなれば家に帰る。
毎日が同じ速度で流れてて、女はいつも市場へ買い出しに行く。

「あなたはこの国の正妃の第二子なのです。」
ペイルと名乗った男はそう言った。
「ハーン城へおいでください。お兄様であらせられるエイザ皇子の命なのです。」
「あたしが、皇女。はっ!笑っちゃうわ。冗談にしろ冗談でないにしろ。」
「冗談とお思いですか?無理もありませんが…」
「そうね。本物の将軍閣下がおでましになってまで疑うほどあたしはバカじゃない。
だけど、愛する場所を離れろという奴の言葉など知らないわ。」
十六年間ここで、育った。
相手が皇族だろうが実の兄だろうが関係ない。
地位や名誉に目が眩むほどバカでもない。
自分が誰なのか、よくわかっている。
ここで育った、エリザ=モネント。
エリザ=ハーンなんて女は知らない。成る気もない。

エリザは席を立つと部屋を出た。
「お待ちください」
(聞こえないわよ。)
市場へ行く時間だ。支度をしなければ、とエリザは自室に急いだ。

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