SolemnAir-home…小説…WORDS■10■JACK
■届かない手と届いたモノ

妹の声がいつも響いていた。
弟の声がいつも鳴っていた。
たった一つしか違わない、妹。
たった一つしか違わない、弟。

はっと、レンは目を覚ます。
ここが自分の部屋であることを確認する。
もう、あの声は聞えない。
あの妹は、もうここにはいないのだ。
後悔、だった。
一族のために犠牲となった妹。
よく笑う妹だった。
国王陛下の元へ向かう時でさえ笑っていた。
「姉上、私は自分がこの立場でよかったと思ってるのよ?」
妹の声が、頭に焼き付いて離れない。
レンは妹が去った今も安眠できなかった。

真夜中になってもシャチセルスは眠れなかった。
真夜中だから、眠れなかった。
かつて、この時間帯には弟の悲痛な叫びが響いていた。
シャチセルスにはあれを過去にしてしまえる人々が信じられなかった。
手を伸ばせば届く距離にいて、一度も手は届かなかった。
ついには言葉さえ失った弟を、自分でなくとも救って欲しいと祈った。

***

「おかしな話だよな。他の人が負った傷を自分が痛いと思うなんて。」
「私もカルに同感だわ。兄上もレンも何を悔やむのかしらね?」
「でも、私もランがここにいなくてホッとしてる。」
「カン?」
「自分と同じ顔のランが、犯されるってのはちょっと…」
「確かにそれはそうね。」
笑い声が響いた。

***

「結局姉上は優しいんだよな。」
「シャルもな。」
「レンとシャチセルス?そうだねぇ。」
「俺のことを今でも後悔してるんだよな。」
「助けてやれなくてごめん、か。」
「決定したのは母上たちだし、姉上が気に病むことじゃないんだ。」
「あの二人は、そういう人だよねぇ。俺の兄上たちと似てる。」
「正直カンは今でも許せねぇよ。同じ顔、だからな。」
「そうか?俺は妹も弟も可愛いけどな。」
「自分が大切にしてるものが壊れると自分が痛いんだよねぇ。」
「エイザがソレを言うとすげー怖いな。」
「何それ。俺は優しい人だって。」
いつになったら伝わるだろうか。
あの姉に、あの兄に。
悔やむ必要は無いと。
自分のことを許してもいいんだ、と。
あの声はもう響かないのだと。

いつだって姉が心を痛めることで
兄が心から怒ることで
あの城にいた間ずっと、救われていたのだと。
その手は届かなくても、届いたモノも確かにあったのだ、と。

俺たちは優しい人に救われ続けているのだ、と。

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