SolemnAir-home…小説…WORDS■12■JACK
■飴が欲しいといえず手に入らない皇子と欲しくないのに手に入れる皇子

不気味だ、とラテンは思う。
カンザス大帝国、第一皇子シーア=カンザス。
常に何かを弾くような笑顔で、その雰囲気には何も近づけない。
ラテンにはひどく苦手な相手であった。

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バカを見ないようにしてきた。
自分が痛い目にあうのは嫌だったから失敗を恐れた。
第一皇子としての勤めを果たそうとしてきた。
完璧であれば誇りが持てる気がした。
非の打ち所が無ければ未来は輝く気がした。


「それってさぁ、全てを見下してるよねぇ?」


どこかの皇子が言った。
違う。
自分は誰も見下してなどいない。
自分が誇り高くあることの何がいけないのか。
おまえに何が解る。
俺はおまえと違って悪いことは何もしてない。

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可哀相だ、と思う。
呪縛のような、いっそ呪いか。
まとわりついては彼を引きずりこもうとしている。

自分の言葉は彼に届かないだろう。
届かなくてもいい、と思う。
それほどまでには自分も慈悲深い存在でない。

ただ、可哀相なのだ。
足掻くにも手放しになればよいのに、と。
何かを結びつけては別の場所がほつれ始める。
ならばいっそ切り捨ててみてはどうか。

彼が積み上げてきた居城が、ひどく脆い物であることが哀しい。
彼が結ぶのをやめてしまえば、一瞬で彼の居所はなくなるのだ。
せめて、不動の拠点を築くならば、
何を傷つけても代価があるだろう。
彼は空虚なもののために膨大なものを払っているのだ。


それがエイザには痛いほどよく解る。

「シーア。いつまで君は国を相手におままごとを続けるの?」

相手が大きすぎるよシーア。
君一人で背負いきれるモノじゃないんだ。
国の中身は空っぽだ。
常に移り変わる、架空の生き物なんだよシーア。

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シーアとエイザの婚約者であるラン=カルロは、実はよく似ている。
少なくともラテンはそう感じていた。
印象がだいぶ違い、
人懐っこいランと近寄り難いシーアは対極のように見えるが
実際はよく似ているのではないか。

大きなモノを相手に無謀な戦いを挑む。
報われなくても、自分を犠牲にしてでも挑む。
それが何のためであるか、そんなことよりも
自分がやらなければ、という責任感か。


報われなくて
痛い目にあっても
何も切り捨てることができない様は
ひどく滑稽だが美しい。
シーアがどれだけ呪縛から逃れたくても
何一つ無下にできない様は見ていて痛々しい。

おそらくどこか螺子の外れたエイザの、
唯一つ愛するものがそれなのだ。
見返りを求めない愛か。
違う。
見返りを求めても手に入らないと解っていても
嫌でも、なぜか飛び込んでしまう矛盾性だ。

完璧になりたい、しかし人間味溢れるシーアと
人間離れした完璧な皇子エイザ。

エイザは他人がどんな感情を抱きどう思うかを
読み取る力に長けている。
しかし、自分がそう感じるという常識を持っていないのだ。

色違いの飴が様々に散らばっていて
誰もが欲しがる物である事は知っている。
ほとんどの人がその色にまでこだわることも知っている。
さらには大体誰がどの色の飴を欲しがるかの見当もつく。
しかし、なぜみんなが欲しがるかの理由までわかっていながら
肝心の 欲しい という部分が欠落しているのだ。

シーアは逆に自分が欲しくてたまらないのに
欲しくないフリをしなくてはならないと思ってしまう。
シーアには誰がどの飴を欲しがるかなどは一切解らない。
誰もに飴が行き渡った後で、
俺はこの色が欲しかったと笑って見せるのだ。
どこか胸にしこりを残しながら。

エイザは求めることも特に持たないが
おそらくシーアのその部分に焦がれるのだ。
ラテンはそういう結論を出している。
それでも自分は苦手なのだ。
胸にしこりが残るくらいなら欲しいと言えばいいのに、と思ってしまう。

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「ランはどう思う?」
「結局な。あの二人、すげぇ仲いいんだって。
 欲しいって言えないシーアがエイザは好きなんだよ。
 んで、シーアは欲しいとも言わず、欲しいとも思わないエイザを羨ましがってんだよ。
 でもな、何か二人で策略を企てる時はそこがマッチするんだ。
 だってあいつら要するに二人とも腹黒い嘘つき皇子なんだぜ?
 シーアはおまえの言ったとおりだけど、エイザもなぁ。
 ”エイザ様、この飴いりませんか?レア物なんですよ”とか言われたら
 ”これ食べてみたかったんだーありがとう。”って笑って言うんだぜ。
 本当は全然そんなこと思ってねーのに。
 エイザの人間味は全部作り物。シーアの完璧さは全部演技。な?」

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